ロンドンのキングズロードで耳に残るのは、自動車のクラクションだけではありません。
1969年―
黒とビターレモンのストライプが、まるでサイレンのように人々の視線をさらっていた。
その衝撃を閉じ込めた一着が、LAILAのアーカイブにやって来ました。
ブティック〈Quorum〉はアリス・ポロックが1964年に開店し、オジー・クラークとセリア・バートウェル夫妻が 1965〜66 年頃に合流。
この瞬間から店はストリートとクチュールの境界を揺さぶる実験室へと変貌します。
クラークはやがて各紙で “King of King’s Road” と呼ばれ、ロックスターやモデルが列を成しました。
・素材:モス・クレープ
・柄:黒×ビターレモンの斜めストライプ+クラウン形モチーフ
・構造:身体に沿うバイアス裁ち
工事現場の警告標識を思わせる配色が、柔らかなクレープと出会う―
この意外性こそ 1969 年のロンドンらしさです。
歩くたびに柄が波打ち、視覚のシンコペーションを奏でる設計は、クラークの流麗なカッティングとバートウェルのオプ・アート的ユーモアが噛み合った証拠でもあります。
バートウェルは後年、「プリントは着る人が動いてこそ完成する」と語っています。
バートウェルのグラフィックは、クラークのバイアスシルエットと共鳴し、静止画では捉えきれない立体的なリズムを生み出しました。
踊るモデル、回るスカート―
当時のショー会場で響いた喝采は、二人の哲学が化学反応を起こした瞬間そのものです。
ファッション・ミュージアム・バースが選出した 〈Dress of the Year 1969〉 は、クラーク&バートウェルによるサテンとシフォンのパンタロン・スーツ。
今回の黒×イエロー・ドレスは、その同年に作られた“兄弟作”と位置付けられます―
パンタロンが選ばれた裏で、ドレスではよりグラフィカルな極北が模索されていたわけです。
近年のオークション結果を見ると、同系統の黒×イエロードレスは £300〜£1,500 が中心。
希少柄や保存状態が極めて良い個体は £2,000 超で取引されるケースも報告されています。
1960年代末、モス・クレープ、バートウェル柄―
“三拍子”揃った本作は、その上位レンジに位置づけられる可能性が高いでしょう。
1960年代末のロンドンは、音楽・アート・ファッションが渾然一体となり、毎晩が“文化実験”のような熱を帯びていました。
本ドレスが発する黒×イエローのバイブスは、その都市の心拍数を可視化したかのようです。
Powerd by FanClub3.0
©2025 NEXT SOCIETY